• 空降る飴玉社の面と向かってシアター『葡萄色ルージュと空っぽ愛のブルース』

    【寄稿】村上 慎太郎(夕暮れ社 弱男ユニット)

  • 「葡萄色ルージュと空っぽ愛のブルース」劇評

    村上慎太郎(夕暮れ社 弱男ユニット)

    まずはじめに ~劇評を書くことについて~

     いつだか「最近の若者は、3行以上の文章を読まなくなっている。」という話を聞いたことがある。それが本当なのかデータを取ったわけではないが、最近のSNSやインターネットなどを覗き見していると確かにそういう潮流があるようにも見受けられる。自分の体感としても感じている。かといって、その潮流に乗っかってこの劇評も「3行以内で」書くのかというと、自分の中にある劇評に対するイメージからはかけ離れてしまう。だが3行を越えた場合、時代の潮流から読まないとされるならば、「文字」に記録して広く多くの方に読んで欲しいという想いに対しては、長くなるばかりの文章にも少しのためらいがある。

     

     その劇評のイメージとは、例えば自分のことを考えると劇評と呼ばれるものを読む場合、未見の上演を知るために読んだり、自分の観劇したものと照らし合わせたりしつつ読む。となると、程よい情報量が欲しくなる。それが、もしもTwitterの140字だとすると、劇評としては少し物足りなさを感じてしまう。

     

     なので、この劇評に関しては3行を遥かに越える予定である(もうスデに越えているが…)。上演記録と今後の空降る飴玉社の発展への願いも込めた感想めいたものも含めると、そのようになってしまう。

     

     3行以上読むのが辛いあなたも、この文章の書き手がそんな葛藤も少なからず背負いつつ書いていることも含めて、どうかここまで来たら共闘するかのように、最後まで想像力を豊かに働かせて読んで欲しい。もちろん読むのが苦でないあなたは、そのまま読み進めてくださいね。

     

     「昨今は、活字離れが・・・」と言われる世の中ですが、是非、劇評と呼ばれるものを読んでほしいなと考え、そんな個人的な葛藤は、振り払い書き進めることにします。

    空降る飴玉社について

     空降る飴玉社は、2014年に主宰・加藤薫の立ち上げた演劇ユニットで、〈日常〉にある〈ドラマチック(劇的な瞬間)〉に着目し、それを〈会話劇〉によって展開した演劇作品を上演している。その上演に対して、空降る飴玉社では、『人生の切り抜き』と掲げ、主に京都の人間座スタジオ・恵文社COTTEGEを中心に発表している。果たして『人生の切り抜き』とは何か?
     例えば、2016年に同じ人間座スタジオで上演した「レターツリーが紡ぐ時を、待ち侘びて」では、登場人物の一人である〈作家〉が得意な作風とする不条理小説ではなく、青春群像劇を描くことを求められ、周り(担当者・女優など)を巻き込んだ物語を展開し、そこで巻き起こる葛藤や人と向き合う様を会話劇で描いていた。その観劇後に感じたのは、「加藤の描く登場人物たちの〈人生の切り抜き〉」を追体験し「観客自身の〈私〉の人生」を重ね、加藤の視点から〈私〉の人生を覗くという〈切り抜き〉をこの上演で得ているのかもな、と劇場を後にした。もちろん、登場人物の〈人生を切り抜き〉や、加藤自身の〈人生の切り抜き〉など、『人生の切り抜き』というストレートな標榜は作品に対して、想像力を豊かにあそばせる事もできるだろうと感じた。

    新作「葡萄色ルージュと空っぽ愛のブルース」について

     さて、新作「葡萄色ルージュと空っぽ愛のブルース」を京都・人間座スタジオで上演した(2017年7月14日ソワレ観劇)。主人公の22歳の女性〈空本 恩〉は、父の再婚によって持つことになった〈居場所の喪失感〉を埋められずにいた。そんな中、彼氏にもフラれ、ひょんなことから訪れることになった葡萄町のゲストハウスの家庭的な温かみに〈居場所〉を感じ、「ゲストハウスの人たちとの交流」と、「父との楽しい過去回想」に振り回されながらも恩が「父と新しい家族と向き合う」までが会話劇で展開されていた。

     

     舞台は、ゲストハウスの共有スペース(食事や談話をする場所)を中心に作られていた。特徴的だったのが、〈観客席とゲストハウス〉が人間座スタジオの〈長方形の劇場〉に対して〈ナナメ〉に設えてあった。つまり、観客は上演時間、劇場の壁に対して〈ナナメ〉に座っている事になる。
     この〈ナナメ〉に座ることは観客が本能的に「居づらさ」を感じる。その正体は、おそらく壁との光の反射具合、壁への音楽の反響の歪み具合、壁と俳優のアシンメトリさ…などから、微妙に感じる視覚・聴覚からくる違和感で、そこに不安定感を自然と得ているためだと思う。舞台美術からそれらを読み取ることは、もしかすると加藤にとっては過剰解釈かもしれないが、〈ナナメ〉は、恩の精神的な「居づらさ」をも表現していると解釈した。これは、ゲストハウスもまた恩の〈居場所〉ではないと感覚的にも知る事ができる装置となっていたようにも考える事ができた。

     

     また、同様に〈居場所〉への葛藤を描かれた場面で特徴的だったのが「デイドリームビリーバー/ザ・タイマーズ」(ザモンキーズの「ドリームビリーバー」にZERRY(忌野清志郎)が、独自に日本詞を乗せた楽曲)を歌う演出からも読み取る事ができた。詞の内容は、忌野清志郎が「実の母」と「育ての母」の二人の「死」と〈向き合った〉ものだというのは有名な話である。母と〈向き合った〉忌野清志郎と、父と〈向き合えない〉恩が相反しているかのようにも読み取れるこの曲を、劇中にゲストハウスの面々が陽気に酔っ払って歌い始める。だが一同が陽気であるのとは逆に、「恩」だけが感情的になり一人声を張り上げ〈エモーショナル〉に歌う。非常にノイジーな場面であったが、恩の「向き合う事/向き合えない事」に抗いもがく様にも〈本来の居場所〉への戻れなさへの葛藤を感じ取れた。

     

     その恩の中、この仮拠点とも言うべき場所に訪れた〈紫藤 尚〉に想いを寄せる。だが、気持ちを募らせていく一方〈紫藤 尚〉の、管理人である元彼女の〈貝野 凛〉や、ゲイとなった弟の〈デラウェア〉との過去のあやまちや、もつれてしまった関係の修復に〈向き合っていく〉様を、恩は目の当たりにする。それぞれの人物の葛藤、過去と〈向き合う〉様を知り、やがて自分の成長を求めるようになる。そして、ここが自分の〈居場所〉でないと気付き〈本来の居場所〉である家族の元へ「ただいま」と戻って行く姿で幕を閉じる。

     

     このことから、「世の中がどんなに変化しても、人生は家族で始まり、家族で終わることに変わりはない(アントニーブラント)」と語られるように、自分の「居場所」である「家族」から「少し離れ」、そして「家族」へ戻っていく「少し離れ、戻っていく」という人生の普遍的な瞬間に、加藤は焦点を当てていたと考える。人生には、すんなり受け入れることはできないことが往々としてある。それに葛藤し、脱出のための何かに出会いたい欲求が高まり、出会いを通して過去回想し、また他人の成長する姿を見たりもして、自分も成長せねば、と過去を昇華していく。これが今作の空降る飴玉社の掲げる『人生の切り抜き』だったのではないかと考えながら劇場を後にした。
     また同時に物語を通して「人生の中で、家族と向き合うこと」への葛藤や困難さは誰しもにある事なのだ、と許してくれているようにも感じた。

  • 寄稿者紹介

     他団体の劇作・演出家

    村上 慎太郎(むらかみ しんたろう)

    夕暮れ社 弱男ユニット

    劇作・演出家・夕暮れ社 弱男ユニット主宰。

    1984年京都市生まれ。2005年京都造形芸術大学映像・舞台芸術学科在学中に「夕暮れ社 弱男ユニット」を結成。以降劇団では脚本・演出を担当している。2008年、次代を担う新進舞台芸術アーティスト発掘事業「CONNECT vol.2」(主催/大阪市)にて大賞を受賞。舞台以外にも、テレビ・ラジオなどのドラマ脚本や新作狂言の台本も手がけたりもしている。
    主に、演出の趣向性で登場人物のリアリティを追求し、俳優から滲み出る多彩なアイデアを舞台に盛り込んでいくのが特徴。

    主な過去作品

    過去3年

    <2014年>
    ・夕暮れ社 弱男ユニット本公演「プール」(京都芸術センター)作・演出
    ・京都市/(公財)京都市ユースサービス協会主催 演劇ビギナーズユニット 「ナツヤスミ語辞典(作・成井豊)」(東山青少年活動センター) 演出
    <2015年>
    ・京都市/(公財)京都市ユースサービス協会主催 演劇ビギナーズユニット 「僕の東京日記(作・永井愛)」(東山青少年活動センター)演出
    ・夕暮れ社 弱男ユニット+劇研アクターズラボ 水曜の家族「東京のドラマ」(高槻現代劇場)作・演出
    <2016年>
    ・夕暮れ社 弱男ユニット本公演「ハイアガール」(京都芸術センター)作・演出
    ・夕暮れ社 弱男ユニット本公演「モノ(作・フィリップレーレ)」(アイホール)作・演出
    ・夕暮れ社 弱男ユニット+劇研アクターズラボ 水曜の家族「リリック×ソング・フォー・ユー」(高槻現代劇場)作・演出
    ・京都市/(公財)京都市ユースサービス協会主催 演劇ビギナーズユニット 「夏休み(作・内藤裕敬)」(東山青少年活動センター)
    ・夕暮れ社 弱男ユニット本公演「僕たちは、世界を変えることはできない」(三重文化会館・京都芸術センター・KAAT神奈川芸術劇場)
    ・京都芸術センター創生劇場「狂言×中国変面」 新作狂言「からくり人形」(京都芸術センター 出演/茂山正邦(現・千五郎)・茂山茂・姜鵬、他)作・演出

    受賞歴・選出作品など

    過去3年

    <2005年>
    ・京都造形芸術大学瓜生山祭 学生展示企画TenTen「瓜生山無責任時代」一般投票大賞
    <2006年>
    ・ 京都造形大学映像・舞台芸術学科舞台芸術コース卒業制作 戯曲「僕たちは世界を変えることはできない~自衛隊に入ろう~」 特別奨励賞
    <2008年>
    ・大阪市主催新進舞台芸術アーティスト発掘事業 CONNECT vol.2「現代アングラー」(於:大阪市立芸術創造館)大賞
    <2014年>
    ・新進演出家短編作品上演会「とある定時制高校(夜間部)の生徒会長」(於:高槻現代劇場)観客最多得票賞
    ・福岡インディペンデント映画祭「ひとなつの」優秀賞(脚本参加)
    <2016年>
    ・AI・HALL次世代応援企画「break a leg」に選出
    ・三重県文化会館「Mゲキ→ネクスト2016」に選出

  • 公演情報

    Infomation

                       脚本・演出 加藤 薫

    2017年7月14日(金)19:00~

       7月15日(土)13:00~/19:00~

       7月16日(日)13:00~/17:30~

       ※開場は開演の30分前です。

    会場:人間座スタジオ

      (〒606-0865 京都府京都市左京区下鴨東高木町11)

    料金:前売り・予約 ¥1,000
       当日     ¥1,200
       ペア浴衣割(浴衣でご来場頂いたペア限定)
        上記金額より各おひとり様につき¥100引き

    予約:https://www.quartet-online.net/ticket/guest-house

       ※満席時はご予約頂いたお客様優先となります。

       ※サイトからの受付は前日の正午までとなります。

        専用サイト以外からもご予約を承っております。
        件名「葡萄色ルージュ予約」で

        お名前・日時・枚数・お電話番号をご連絡下さい。
        E-mailやお問い合わせフォームからのご予約の場合は、

        返信をもって受付完了とさせて頂きます。

    問合せ:skycandydrop@gmail.com

     

    誰かと繋がっていたい、誰かの一番でありたい、

    私、何か間違ってますか?

    <CAST>

     空本 恩  ・・・伊藤 優(劇燐「花に荒らし」)

     デラウエア ・・・加藤 薫

     紫藤 尚  ・・・藤村 弘二(劇団しようよ/虹色結社)

     貝野 凛子 ・・・谷内 一恵(演劇Unit∮Ring)

     夏目 芙実 ・・・にし ゆり

     

    <STAFF>

     【舞台監督】蓬 真一(くろずこんび)

     【舞台監督補佐】BIG-B(くろずこんび/抜きにくい釘)

     【舞台美術】BIG-B(くろずこんび)、いのまちあーみ、

           塚田 緑(演劇実験場下鴨劇場)

     【照明】金木犀

     【音響】水野はつね(くちびるに硫酸)

     【音響オペ】鈴木 邦拡

     【衣裳】長村安奈

     【衣装小道具補佐】楢 兎深笑(劇団立命芸術劇場)

     【宣伝美術】ODA

     【制作】かづちやえ(演劇Unit∮Ring)

         溝上 千穂(劇団立命芸術劇場)

         チャッキー(劇団集団忘却曲線)